緑内障とは
何かしらの原因により視神経、網膜が障害され視野を喪失、最悪の場合は失明に至る疾患を指します。その原因については、眼圧の上昇がよくいわれていましたが、2003年の多治見スタディと呼ばれる研究から、日本人の場合、多くの患者さんで緑内障の発症に眼圧の上昇が伴っていないことがわかり、2017年発行の緑内障ガイドラインにおいて、緑内障の定義に『眼圧の上昇』は記載されていません。そのため視神経の脆弱性なども原因として指摘されており、OCTA(光干渉血管断層撮影)を用いた緑内障評価も有効性が示唆されています。このことから眼圧の値が正常であったとしても緑内障を発症する正常眼圧緑内障にも注意が必要です。
眼圧とは、眼内からの圧力のことで房水と呼ばれる液体(酸素や栄養を供給)が目の中を循環し一定に保たれています。この流れが妨げられると眼圧が上昇し視神経乳頭を圧迫、障害を受けます。眼圧検査によって、その圧が10~21mmHg内にあると正常範囲ですが、視神経の脆弱性が原因の場合は正常範囲でも視神経が障害を受けるようになります。
発症間もない頃は自覚症状が現れにくく、主に鼻側に暗点がみられるようになりますが、自分で気づくケースは稀です。その後、暗点の拡大はゆっくり進行し、視野狭窄に気づいた頃は、症状が悪化している状態であることが多いです。一度障害を受けてしまった視神経は現代医学では改善できません。失明に至らないためにも早期発見、早期治療が重要です。統計において40歳以上の20〜50人に1人の割合で発症するとも言われており、また強度近視の場合、緑内障発症リスクは3〜4倍と言われています。これといった眼症状がなかったとしても40歳を迎える頃には一度検査を受けられることをお勧めします。
緑内障の種類
緑内障はいくつかに分類されます。他の原因となる疾患とは関係なく緑内障を発症している原発緑内障(原発開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、原発閉塞隅角緑内障)、他の病気がきっかけとなって発症する続発性緑内障、小児期に発症する小児緑内障(先天緑内障を含む)があります。
原発開放隅角緑内障
原発開放隅角緑内障とは
従来の眼圧上昇を伴う緑内障と眼圧が正常範囲内にある正常眼圧緑内障を包括したものが原発開放隅角緑内障です。この場合、房水の流出路でもある隅角(角膜と虹彩が接している部分)は閉塞されていないことからこのような診断名がつけられています。自覚症状が現れにくく、少しずつ症状が進行していきます。
正常眼圧緑内障
正常眼圧緑内障とは
眼圧が正常範囲内(10~21mmHg)にも関わらず緑内障を発症している場合に正常眼圧緑内障と診断されます。この場合、視神経の脆弱性などが原因と考えられています。日本人の全緑内障患者さんのうち、6割近くの方がこの正常眼圧緑内障であることが分かっています。
原発閉塞隅角緑内障
原発閉塞隅角緑内障とは
主に加齢による形態変化が原因で隅角が狭窄し、房水の流出が妨げられ眼圧が上昇している状態を原発閉塞隅角緑内障と言います。急性と慢性の2つに大別され、急性の場合は完全に隅角が閉塞し、激しい眼痛や頭痛、嘔吐、視力低下などの症状が現れます(急性緑内障発作)。深夜に発症することも多く、早急に対応しないと失明することもあります。
続発緑内障
続発緑内障とは
外傷、感染症、ぶどう膜炎などの眼疾患だけでなく、全身疾患、ステロイドなど薬物使用により眼圧が上昇し、それにより視神経が障害され緑内障を発症する状態を言います。
小児緑内障
小児緑内障
先天的な隅角形成異常が原因となる先天緑内障といい、特に乳幼児期に高眼圧で牛眼の症状を有するものを原発先天緑内障といいます。全身疾患や未熟児網膜症など後天要因による続発緑内障に分類されます。
検査について
緑内障の診断をつけるための検査としては、細隙灯顕微鏡検査、眼圧検査、眼底検査、視野検査が行われます。近年ではOCT、OCTAを用いた視神経乳頭、網膜構造や血管構造の評価も行います。それぞれの検査内容は次の通りです。
細隙灯顕微鏡検査 | 目の表面に光を当て、隅角の状態や炎症の有無、色素の浮遊などがないかを評価し、緑内障の分類に役立てます。 |
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眼圧検査 | 目の表面に測定器具あるいは空気を当てることで眼圧を測定する検査です。 |
眼底検査 | 眼底(瞳孔の奥にある)を眼底カメラや眼底鏡で観察、眼底の血管、網膜、視神経を評価し緑内障発症の有無を確認します。 |
視野検査 | 緑内障の進行程度を把握するための検査です。器械で行う場合と検査員が直接評価する場合があります。緑内障の病期により検査を選択します。 |
OCT(光干渉断層撮影)、 OCTA(光干渉断層血管撮影) |
眼底撮影法の方法で、OCTでは視神経乳頭や網膜の構造変化を捉え、OCTAでは血管構造を評価し、緑内障の程度を他覚的に評価します。 |
治療について
緑内障で失った視野を回復することはできません。眼圧を下降させることで進行を遅くして失明を回避します。方法としては薬物療法、レーザー療法、手術療法が挙げられます。
薬物療法
緑内障の治療の基本は薬物療法で、主に点眼薬を使用していきます。房水の産出量を減らす、流出を促すといった作用のものがあり、副作用に注意しながら適切なものを選択していきます。場合によっては内服薬、点滴を併用することもあります。
急性緑内障発作の場合には、薬物で一時的に眼圧を下降させた後、手術加療となります。レーザー虹彩切開術で対応することも行われてきましたが、角膜内皮を損傷し後に水泡性角膜症を発症することが多く、今日では積極的には行われません。
レーザー療法
レーザー線維柱帯形成術は、線維柱帯にレーザーを照射することで目詰まりを解消させ、房水流出を促進します。薬物治療と併用して行われることがあります。
レーザー隅角形成術は、虹彩周辺部を収縮させ隅角を開大させることで、防水の流出を期待する治療となります。一過性の炎症に伴い眼圧が上昇する場合や無効な場合もあります。
手術療法
薬物療法やレーザー療法では改善が困難な場合に行います。線維柱帯を切開して房水の流れをスムーズにする線維柱帯切開術と、線維柱帯の一部を切除し結膜の下にバイパスを作成する線維柱帯切除術があります。ただし手術をしたら治療終了ではなく、流出路がつまることもあり、その場合には点眼治療の再開や再手術も選択されます。
今日ではMIGSと呼ばれる極小切開の緑内障手術もあり、中には特殊なフックを用いて線維柱帯を切開する術式もあり、白内障手術と同時に行われます。